高校１年、美術部を半年でクビになった。顧問の教師と喧嘩をしたのが原因だった。なぜ、喧嘩になったかというと。絵の展示会が３か月後に予定されていたのだが、その題材を教師に「自画像」と決められてしまい、僕は自画像なんかちっとも描きたくなかったので、何か違うものが描きたい。と意見したが、自画像以外は認めないと厳しく言われた。仕方ない。
鏡を見ながらしぶしぶ自画像を描き始めると、その教師は（一応、地元では名のある芸術家だった）すぐに部員の絵に手をだしてきた。否応なしに、修正したり、加筆したり、結果的に、部員全員の絵がその教師の作品みたいになってしまった。そこまでしても展示会で良い成績を収めたい、認められたいという、ただの自己顕示欲だよね。作者の気持ちを完全に蔑ろにしてる、最低な行為に思えた。
呆れて、うんざりした僕は急遽、製作途中の自画像の上から、赤い林檎の絵を描き始めた。なんとなく林檎が描きたい気分だったから。信号器のように、最初は青から、林檎はどんどん赤く色付いてゆく。僕は熱中した。林檎を描き終わる手前で、それを見つけた美術教師の顔が一瞬凍りつき、怒鳴ってきた。 「なぜ林檎なんか描いてるんだ！」 「描きたいからです」 「今すぐ消しなさい！」「嫌です！」
みたいな応酬があった所で、僕はついに頭に来てしまって、机の上にあったカッターナイフを握りしめて、キャンバスをズタズタに引き裂いて、絵筆をへし折って机に投げた。そして気が違った奴の振りをして大笑いしてやった。自分の作品をブチ壊された教師の顔は、ちょっと見ものだった。他の部員は、絵筆を持ったまま、石像のように凍り付いて、部長は仲裁もフォローもしてくれなかった。
場の空気が非常に悪くなり、僕は黙って美術室から去った。そして強制退部になった、クビだ。それから僕は高校にもあまり行かなくなり、何故かライブハウスに出入りして、バンドで歌うようになった。僕が初めてスタジオに持っていったオリジナル曲は「赤い林檎」という題名だった。その曲は歌詞もメロディも忘れたけど、スリーコードのパンクロックだった事だけ覚えてる。その後も美術教師とは険悪なままだったが卒業するまで、美術の成績だけはずっと「５」だった。だからよかった。
それほど悪い奴でもなかったのかもって今では思う。それだけの話。その後、僕はグラフィックデザインの専門学校に進んだが、東京でバンドをやる為の口実に過ぎず、生半可な気持ちだったから、まるで物にはならなかった。でも今でも油絵は好きだと思う。いつか再挑戦したい。そして、また林檎の絵を描きたいな、と懲りずに思っているのだった。
笠原メイ